「平成30年住宅・土地統計調査(総務省)」によれば高齢者のいる借家の世帯は
400万を越え、5年前より45万世帯も増加。借家に占める割合も2割を超えています。
さらにそれらの物件の多くは老朽化が進んでおり、今後住み替えなどの
斡旋需要の高まりが予想されます。
その一方で、家探しをする際に高齢であることを理由に断られたというケースは多く
65歳以上というだけで、個々の健康状態を無視して、
判断されることも少なくありません。
一番のデメリットとして挙げられるのが「孤独死」。
その後、部屋のクリーニングや事故物件となることも考えると
なかなか受け入れがたいことも分かります。
しかし、今年3月に全宅連から
「自然死自体は心理瑕疵に当たらない」(自然死があっても事故物件にはならない)
という検討結果が出され、今後の法整備の基準となることが期待されています。
今回はどうして自然死が「心理瑕疵」にあたらないとされたのか。
また今後高齢者を受け入れるにあたり、なにが必要か考えてみました。
参考:
全国宅地建物取引業協会住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書
そもそも「心理的瑕疵」とは…
裁判例では
「目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥」とされていますが
その定義については、当事者や物件の内容ごとに異なり、
また時の経過によって薄れていくものが挙げられています。
契約時に説明がなく後日借主が知ることによる精神的ダメージなどを踏まえ、
後日、借主が知る可能性の程度も瑕疵判断の一つの要因であるとの指摘もあります。
しかし、そもそも「瑕疵」とは物件が通常有するべき性能・価値の欠如を
意味するものであり、特殊な事案がそれにあたるのではないか、
それに「自然死」が当たるか、ということが焦点になっています。
■賃貸住宅内で一人暮らしの「死」は通常ありうる、という考え方
①自然死については原則、説明・告知が必要ない
「一人暮らしであれば、孤独死が起こるのは普通のこと」ということを前提にすれば
これを「心理的瑕疵」ということはできない、というのが
自然死(孤独死)が心理的瑕疵に当たらない大きな理由になります。
②発見に至る経緯等によっては、借主に伝える必要がある
遺体の臭気等が近隣にも及んだ場合は、新たな借主が近隣から指摘を受けて、
事実を認識することによって心理的瑕疵となる場合があります。
この場合は、事前に説明告知する必要があるでしょう。
③時の経過によっては心理的瑕疵が薄まるので説明告知する必要はない
自殺に関わる裁判例などを踏まえ、
・説明、告知の必要は次の借主に限られる
・次の借主が通常の契約期間(契約期間が2年間ならば2年間)居住すれば
その次の借主に対する説明、告知は不要
と整理されました。
高齢者を受け入れつつ、早期に異常を発見できる仕組み作りが重要になるでしょう。
すでに安価な見守りサービスや管理費用保険も販売されており、
低コストでの見守りの仕組みづくりが可能になっています。
ご家族がいる場合は、見守りサービスが発信する電話やメールを受け取ってもらい、
何かあればご家族で対応いただくことも可能でしょう。
複数人でサービス料金を分担すれば、負担も少なくなり、安心感もあります。
こうしたサポートを充実させれば高齢者を受け入れることは、
むしろ安心につながるのではないでしょうか?
■高齢者を拒否する方が今後はリスクになる?
前述したように、今後、単身の高齢者世帯は増加する傾向にあります。
3人に1人が高齢者であり、またその中でも元気な高齢者と言われています。
積極的に高齢者を受け入れている管理会社や家主は
「空室が埋まりやすく、賃貸経営が安定しやすい」と答えています。
理由としては
・1階や立地が悪くても客付けできる
・高齢者は立地よりも家賃の安さを重視
・平均入居期間も長い
ということが挙げられています。
もちろん、スロープや手すりなど設備強化が必要になる物件もあるかと思います。
1階で家賃も安価な物件で空室が出たのなら、
そういった視点でリフォームしても良いかと思います。
■「高齢者」も変化しつつある
高齢者の多くがスマートフォンを持つ時代となり、
60代でも8割弱、70代であっても半数以上の人が
インターネットを利用しているというデータもあります。
おうち探しにおいてもポータルサイトを利用している方が増えています。
ポータルサイトの中には「高齢者歓迎」などの検索項目があるところ、
他にもR65不動産や住宅セーフティネットなど
高齢者に的を当てて募集をしているところもあります。
実際、孤独死があった物件でも、
告知したうえでもほとんど家賃が下落していないとも言われています。
1割2割減額した場合はむしろ問い合わせが多く、
孤独死が心理的瑕疵に与える影響は長期にわたらないという結論になりました。
今後の賃貸業界を考えれば、設備やサポートを整えて「高齢者」を受け入れることは
むしろプラスになるのではないでしょうか?