越境している竹木を切除する場合や電気・ガス・水道といったライフラインを設置する場合など、
隣地を使用する必要が生じることがあります。
その場合に隣地(隣の土地)を使用できる権利があることを定めています。
この権利のことを「隣地使用権」といいます。
この「隣地使用権」ならびにライフラインの設置に行使される「ライフライン設置利用権」が
令和5年4月の民法改正によって、より分かりやすいものへと変わりました。
いったいどのように変わったのでしょうか?
■民法改正前の問題点
「隣地の使用を請求することができる」「障壁又は建物を築造し又は修繕するため」と
規定はありましたが、具体的なことを定められていないため、
・隣地の使用の請求方法
・拒否された場合や隣人と連絡が取れない場合の対応
・明示された目的以外の使用
などの不明点があり、土地が有効に利用できないという問題が起こっていました。
■隣地使用権(民法209条)の改正ポイント
(1)適用場面の明確化
改正民法209条1項では、以下の目的のために必要な範囲内で
隣地を使用することができるものと定められました。
①障壁、建物その他の工作物の築造、収去または修繕
②境界標の調査または境界に関する測量
③枝の切り取り
(2)隣地を使用できる権利を有する
隣地使用権は、土地所有者が隣地所有者等の承諾(または承諾に代わる判決)を得なくても
隣地を使用することができる権利であるという考え方が採用されました。
ただし、使用する場合は、隣地所有者の利益にも配慮し、(3)のことを留意しなくてはいけません。
(3)隣地所有者への対応や使用時の留意点
・最も損害が少ない方法をとる
・使用者へは使用の日時、場所および方法などを
事前(2週間~1か月程度が目安)の通知、事後の通知をする
・隣地使用者等が損害を受けた時は、償金の請求の権利が発生する
(4)その他留意点
・自力救済の禁止
隣地所有者の承諾が得られない場合は裁判所の手続きを利用すること。
万が一、妨害行為を受けても、裁判所からの判決がないと対応してはいけません。
・黙示の承諾は厳禁
隣地使用者等が承諾の可否を明らかにしない場合は
きちんと承諾をもらえるよう努めましょう。
安易に「だめといっていないからやろう!」と強行することは許されません。
・緊急の場合は裁判所の手続きがなくても隣地使用が許容されることも
自然災害によって、緊急に工作物の撤去、修繕が必要であり、
隣地使用者への連絡が取れない場合は、隣地使用が許容される場合もあります。
■ライフライン設置利用権(民法213条の2)の改正ポイント
(1)ライフライン設置権、使用権の新設
新たにライフラインの設置について明文化されました。
・土地所有者が他の土地に設備を設置
・他人が所有する設備を使用
上記をしなければ、電気・ガス・水道水などのライフラインの給付が受けられない場合、
必要な範囲内で他の土地や他人が所有する設備を使用することができます。
(2)ライフライン設置権使用時の留意点
隣地使用権同様、
・最も損害が少ない方法をとる
・使用者へは使用の日時、場所および方法などを
事前(2週間~1か月程度が目安)の通知、事後の通知をする
・隣地使用者等が損害を受けた時は、償金の請求の権利が発生する
といったことは留意しなくてはいけませんが、違いとしては
・事前の通知は例外なく、必ずしなければならない
・長期にわたってライフラインを利用することを想定し、
1年ごとの償金の支払いや設置費用、メンテナンス費用を
負担する義務が発生する
といった部分があります。
■越境した枝の切除に関する改正
改正前の民法では、「竹木の所有者に対して、枝を切除するように求め、所有者がこれに応じない場合は判決を得て、強制執行によって切除する」といった手続きが必要なうえに
所有者が不明な場合は、枝を切除することが難しい状況でした。
改正後は以下の場合、越境している枝を土地所有者が切り取ることができるようになりました。
①竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、
竹木の所有者が相当の期間内に切除しない
②竹木の所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない
③急迫の事情があるとき。
ただし、枝の越境によって害がない場合は、上記が適用されないこともあるので、
まずは竹木の所有者へ相談するようにしましょう。
隣地使用権やライフライン設置・利用権については
なかなか浸透されておらず、無理矢理進めようとすると
トラブルを長い期間抱えかねません。
使用したい場合は早めに業者や弁護士等の専門家に相談し、
お互い様の気持ちで使用権を活用していきましょう。