シニア世代が賃貸暮らし?理由と長期入居の糸口でもお伝えしましたが、
賃貸住宅に移り住み、なおかつそのまま、「終の住処」とする人が
今後どんどん増えてきます。
「家賃の滞納」「孤独死」「室内での事故」「遺留品の処理に困る」など
不安はつきませんが、すでに避けては通れない問題となってきています。
今回は、自物件を「終の住処」とするであろう高齢者が入居する時の対応として
「終身建物賃貸借事業」についてご紹介します。
「終身建物賃貸借事業」とは
高齢の単身者あるいは夫婦世帯等が最期まで安心して賃貸住宅に
住み続けられるよう考えられた制度です。
終身建物賃貸借事業は、大家などの事業者が知事の認可を受け、
借家人が死亡したときに終了する借家契約によって
高齢者に対して住宅を賃貸することができる制度です。
この事業の利用により、借家人と大家にはそれぞれメリットがあります。
●借家人のメリット
■ 高齢になっても入居を拒まない住宅を見つけることができる
高齢者の入居が前提の住宅なので申し込み時に入居を拒まれることはない。
さらに最期まで住み続けることができる。
■大家などからの解約の申入れ事由が限定されている
家主からの解約申入れは、住宅の老朽等の場合に限定される。
■同居人は継続して住み続けることが可能
死亡した賃借人と同居していた配偶者または
60歳以上の親族は継続して住み続けることが可能
配偶者死亡後も同居者は住む場所に困ることがない。
■1年以内の定期建物賃貸借により仮入居が可能
終の棲家として入居したものの、近所づきあいなどの問題で
住み続けられないこともあり得る。
そのような事態への対策として事前に最長1年のお試し期間を設けることができる。
■前払い金の保全措置がとられている
認可物件に入居する場合、通常よりも長期間分の前家賃などを
求められることもある。
しかし、その家賃分住むことなく亡くなったとしても、残りの前払い金が
配偶者や相続人などへ確実に戻せるように保全措置がとられている。
●大家のメリット
■借家人が死亡しても無用な借家契約の長期化を避けることができる
借家契約の長期化とは、通常だと賃借人の死亡後は契約が
相続人に引き継がれてしまうため、相続人が見つからない場合などは
契約を解約することができずに空室の状態が続いてしまう、といったことだ。
同事業で認可を受けた物件ならば借家人が死亡したときに
契約が終了するのでその心配はない。
■遺留品の処理等を円滑に行うことができる
通常の契約だと遺留品は、相続人の許可がないと処理をすることができないが、
残置物の引き取りが一カ月間行われなかった場合、
・引き渡し費用を敷金から引いて、残置物引き取り人へ引き渡す
・引き取り人が残滓物を引き取らない場合、処分費用を敷金から引いて、処分できる
■相続人への明渡し請求に伴う立退料を請求されるおそれがない
契約が相続人へ引き継がれないので、立退料は発生しない。
制度を利用するには以下の条件をクリアしなくてはいけません。
1.入居者
・60歳以上
・単身または同居者が高齢者親族であること(配偶者は60歳未満でも可)
2.住宅の基準
・段差のない床、浴室等の手すり、幅の広い廊下等を備えていること
3.高齢者が死亡した場合の同居者の継続居住
・同居者は、高齢者の死亡後1ヶ月以内の申出により継続して居住可能
4.解約事由
・家主からの解約申入れは、住宅の老朽等の場合に限定
5.その他の借家人に対する配慮
・借家人が希望すれば終身建物賃貸借契約の前に
定期借家により1年以内の仮入居が可能
制度自体は2001年ともう10年以上前に設立しましたが、
認可実績はわずか9,733戸(2016年末時点、サービス付き高齢者向け住宅含む)と
認可実績はまだまだ少ないです。
理由としては
😕 必要な申請書類が多く、手続きも煩雑である
😥 バリアフリー基準のハードルが高い
😐 そもそも制度が知られていない
といったことがあげられます。
そこで、2018年9月、終身建物賃貸借事業の活用を推進するために
制度の改正が行われました。
主な改正は以下の通りです。
・申請の際、付近見取図、配置図、建物の登記事項証明書、
法人の登記事項証明書等の添付書類を不要とする。
・既存の建物の段差や階段の寸法に関するバリアフリー基準を削除する。
・セーフティネット住宅でも終身建物賃貸借事業の活用を促進するため、
9m2以上のシェアハウス型住宅について、
セーフティネット住宅と同様に終身建物賃貸借事業に活用できることとする。
・高齢者居住安定確保計画を定めている都道府県および市町村は、
認可基準として設備基準、バリアフリー基準を強化または緩和できることとする
(現行では床面積のみ可)。
※高齢者居住安定確保計画とは、各自治体が定める、
高齢者が住まいを安心して確保できるようにするための計画
終身建物賃貸借物件は各自治体で認可しており、
また、改正で都道府県知事が必要と認める書類の提出が必要になりました。
情報としては平成30年(2018年)9月以降のものか確認し、
市町村の担当課へ一度問い合わせて見ましょう。
制度としては、引き続き試行錯誤という段階ですが、
今後、高齢者を受け入れざるを得ないケースも多々出てくるでしょう。
オーナーさんと入居者どちらも、安心できる提案として、
物件やターゲットの状況によっては活用していきたいですね。